名古屋港のサイバー攻撃から学ぶランサムウェア対策

インシデント事例

2023年の夏、「名古屋港が止まった」というニュースを覚えている方も多いのではないでしょうか。

2023年7月4日、名古屋港のコンテナターミナルを支えるシステム「NUTS」が、ランサムウェアというサイバー攻撃を受けて停止しました。

ランサムウェアとは: 会社のコンピューターの中のデータを勝手に暗号化して使えなくし、「元に戻してほしければお金を払え」と要求する攻撃です。

「日本を代表する港の話で、うちには関係ない」と感じるかもしれません。

しかし当事者の報告では、社外から社内のシステムにつなぐための機器から入られたと考えられています。

こうした機器は、会社の規模を問わず使われています。

この記事は、中小企業の経営者や、IT専門の担当者がいない会社の方に向けて書いています。

読み終わる頃には、名古屋港で何が起きたのか、侵入経路として何が公表されているのか、そして自分の会社を守るために今日から何をすればよいかがわかります。

内容は、名古屋港運協会の経緯報告や国の資料など、出どころを確認できる情報をもとにしています。

名古屋港で起きたことを、数字で見るとこうなります。

名古屋港のランサムウェア被害を数字で見る

  • 港の作業が止まった期間は約2日半(2023年7月4日朝〜7月6日夕方)
  • 荷物の積み下ろし(荷役)の予定に影響が出た船は37隻
  • 搬入・搬出に影響が出たコンテナは約2万本(推計)
  • 停止した3日間で、国内のコンテナ取扱量の約12%に相当(国土交通省の検討委員会の整理)

名古屋港のランサムウェア攻撃で何が起きたのか

名古屋港には5つのコンテナターミナルがあります。

そのすべてのターミナルと集中管理ゲートを、「NUTS(名古屋港統一ターミナルシステム)」という1つのシステムがまとめて管理しています。

港にとっての司令塔にあたるシステムです。

2023年7月4日の朝6時30分頃、このNUTSが突然動かなくなりました。

調べると、データセンター(サーバーを集めて置いてある施設)の中のNUTSのサーバーが、すべて暗号化されていました。

司令塔が止まったため、コンテナの積み下ろしや搬入・搬出といった作業が、全ターミナルで止まりました。

会社にたとえると、受注も出荷も在庫管理も1台のパソコンで回していて、朝出社したらそのパソコンが開かなくなった状態です。

復旧はデータの控え(バックアップ)から進められました。

ところが、その控えからもウイルスが見つかり、駆除のために復旧は1日ずれ込みました。

全ターミナルの作業が再開したのは、7月6日の18時15分でした。

時系列で見る

日時 起きたこと
7月4日 朝 NUTSの停止を確認。システム専用のプリンターから脅迫文書が印刷され、愛知県警へ通報
7月4日 午後 NUTSのすべてのサーバーが暗号化されていることが判明
7月5日 夜 バックアップデータからウイルスを検知し、駆除を開始。復旧が翌日にずれ込む
7月6日 朝 バックアップの復元が完了。ただし通信のトラブル(ネットワーク障害)が発生
7月6日 夕方 障害が解消し、各ターミナルが順次再開。18時15分に全作業が再開

同じような事案の流れは、サイバー攻撃の事例一覧でも確認できます。

犯人はどうやって入り込んだのか(公表されている範囲)

入り口として公表されているのは、社外から港のシステムにつなぐための機器です。

名古屋港運協会は「リモート接続機器の脆弱性が確認されており、そこから不正なアクセスを受けたと考えられます」と報告しています(詳細は調査中とされています)。

脆弱性とは: ソフトウェアや機器に残っている、安全上の弱点のことです。

家にたとえると、保守業者さん用の通用口のカギが古いまま放置され、そこから入られたと見られている状態です。

国土交通省の検討委員会は2024年1月の取りまとめで、「保守用VPNを通じて物理サーバに攻撃者が侵入し、サーバ情報が暗号化されたものと考えられる」としつつ、「VPN経由以外での侵入の可能性についても否定することはできない」と整理しました。

VPNとは、社外から社内のネットワークにつなぐための仕組みのことです。

断定された結論は、今も公表されていません。

どの機器のどんな弱点だったのかも公表されておらず、攻撃者のグループ名についても、当事者や行政の資料には記載がありません。

どれくらいの被害が出たのか

被害の中心は、情報の流出ではなく「港が止まったこと」でした。

国土交通省の検討委員会の整理によると、停止した3日間で荷物の積み下ろしの予定に影響が出た船は37隻、搬入・搬出に影響が出たコンテナは約2万本(推計)にのぼります。

これは、この期間の国内のコンテナ取扱貨物量の約12%にあたる規模です。

情報の流出については、名古屋港運協会が2023年7月26日の報告で「外部への情報漏洩の形跡は確認されておりません」としています(同時点)。

身代金はどうだったのでしょうか。

印刷された脅迫文書に金額の記載はなく、名古屋港運協会は攻撃者への連絡も行っていません。

名古屋港の対応から学べること

まず、公表されている事実を押さえます。

名古屋港運協会は、停止の確認から約2時間半後の朝9時頃に愛知県警へ通報しました。

攻撃者とは連絡を取らず、7月26日には時刻単位の詳しい経緯報告を公表しています。

一方で、国土交通省の検討委員会は、この事案の問題点を4つ挙げました。

  • 保守作業に使う外部接続部分のセキュリティ対策が見落とされていた
  • サーバーやネットワーク機器の脆弱性対策が不十分だった
  • バックアップの取る範囲と保存期間が不十分だった
  • システム障害時の対応手順が整備されていなかった

これは行政側の整理であり、名古屋港運協会自身の自己評価ではありません。

この4点から、中小企業が持ち帰れる教訓は3つに絞れます。

  1. バックアップは「ある」だけでは足りない。名古屋港では控えのデータからもウイルスが見つかり、復旧が1日遅れました。安全に戻せるかどうかまで確かめて、はじめて備えになります。
  2. 保守用の入り口は見落とされやすい。ふだん自分たちが使わない業者さん用の接続こそ、点検の対象から漏れがちです。
  3. 止まったときの手順を先に決めておく。誰に連絡し、何から復旧するかを、平時のうちに文書にしておく必要があります。

この事案をきっかけに、国は港湾を経済安全保障上の基幹インフラ(社会を支える重要な仕組み)と位置づける検討を始めました。

1つの港のシステム停止が、国の制度を動かすほどの重みを持ったということです。

自分の会社を守るために、今できること

名古屋港の教訓は、そのまま自社の点検項目になります。

今日の3問

保守会社やIT担当者に、次の3点を聞いてください。

  • 社外から社内のシステムにつなげる機器(保守業者用の接続を含む)は何台あり、更新と点検はいつしたか
  • バックアップ(データの控え)は、取る範囲と保存期間が決まっていて、実際に戻す練習をしたことがあるか
  • システムが止まったとき、誰が・誰に連絡し・何をするかを書いた手順書があるか

3つの質問文は、このままコピーして保守会社にメールで送ってもかまいません。

答えられない項目が1つでもあれば、今週中に保守会社へ点検を依頼してください。

そのうえで、時間のあるときに次の5項目も確認しておくと安心です。

  • 保守会社がどんな方法(機器・VPN)で社内につないでいるかを、文書で確認する
  • 使っていない外部からの接続口や、古いアカウントを止める
  • サーバーや機器を最新の状態に保つ(更新プログラムを適用する)担当者を決める
  • バックアップの1つは、普段のサーバーから切り離した場所に保管する
  • 障害時の連絡先リスト(保守会社・警察・主要な取引先)を紙でも持っておく

自分でまず見るなら、無料のセキュリティチェックで現状を確認できます。

専門家による点検を検討する場合の費用感は、脆弱性診断の費用の目安にまとめています。

参考にすべき一次情報・公的資料

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