アサヒのサイバー攻撃から学ぶランサムウェア対策

インシデント事例

2025年9月29日、アサヒグループホールディングスの国内システムで障害が起きました。

調査で、ランサムウェアによるサイバー攻撃だと分かりました。

ランサムウェアとは、会社のコンピューターの中のデータを勝手に暗号化して使えなくし、「元に戻してほしければお金を払え」と要求する攻撃です。

受注と出荷の仕組みが止まり、紙とFAXでの対応が2か月以上続きました。

2026年2月までに物流業務は正常化し、同年7月時点で漏れた情報の悪用は確認されていません。

数字で見る

  • 入口は、社外から社内につなぐネットワーク機器で、障害の約10日前に侵入されました
  • 紙とFAXによる手作業の対応が2か月以上続きました
  • 漏えいが確認された個人情報は115,513件(約11万5千件)です
  • 漏えいのおそれがある情報は約228.9万件として、2026年7月に範囲が見直されました

アサヒグループのランサムウェア攻撃で何が起きたのか

2025年9月29日午前7時ごろ、国内システムで障害が発生しました。

調査の中で暗号化されたファイルが見つかり、ランサムウェア攻撃と判明しています。

止まったのは、ビールや飲料、食品の注文と出荷につながる仕組みでした。

会社の発表によると、攻撃はネットワークにつながった複数のサーバーと、一部の従業員用パソコンに及びました。

海外グループ会社への影響は確認されていません。

家にたとえると、建物の配電盤が止まり、各部屋の仕事道具が一度に使えなくなったような状態です。

注文を受けて商品を届ける仕事では、止まった時間そのものが大きな負担になります。

アサヒグループは、攻撃者と接触せず、身代金も支払っていないと会見で説明しました。

時系列で見る

時期 起きたこと 事業への影響・対応
2025年9月19日ごろ グループ内拠点のネットワーク機器を経由して侵入されたと推定 障害発生の約10日前から内部で偵察が行われました
9月29日午前 障害を検知し、暗号化ファイルを確認 ランサムウェア攻撃と判明しました
9月29日午前11時ごろ ネットワークとデータセンター(会社のサーバーを置く設備)を遮断・隔離 約300拠点との接続などを止め、広がりを防ぎました
10月2日以降 紙とFAXによる手作業で一部の製造・出荷を再開 手作業対応は2か月以上続きました
2025年12月〜2026年2月 電子受発注を再開し、物流業務が正常化 配送にかかる日数も通常化しました

止める判断は、被害を広げないための大事な処置です。

同じような事案の流れは、サイバー攻撃の事例一覧でも確認できます。

犯人はどうやって入り込んだのか(公表されている範囲)

アサヒグループの2026年2月の発表によると、外部の攻撃者はグループ内拠点にあるネットワーク機器を経由して内部ネットワークへ入りました。

ネットワーク機器とは、社外と社内のシステムをつなぐための機器です。

VPNとは: 社外から社内のシステムにつなぐための仕組みです。

アサヒグループは再発防止策として、リモートアクセスVPN装置の全面廃止を公表しました。

ただし、侵入に使われた機器の具体名は公表していません。

その後、主要なデータセンターで、公表された「パスワードの脆弱性」、つまりパスワードまわりの侵入されやすい弱点(脆弱性)をつかれ、システムを広く操作できる強い権限を奪われたとしています。

奪われたアカウントを使い、主に業務時間外に複数のサーバーを調べて回ったとのことです。

これは、合いカギを1本盗まれ、夜のうちに建物の中を下見されたような状態です。

侵入から障害までの約10日間を見つけられなかった点は、監視の大切さを示します。

攻撃者名については、報道で「Qilin」を名乗る主体の主張が伝えられていますが、アサヒグループの公表資料は名前を示していません。

どれくらいの被害が出たのか

2026年2月18日時点で、外部への漏えいが確認された個人情報は115,513件です。

内訳は、従業員など5,117件、取引先の役員・従業員など110,396件です。

2026年7月17日には、漏えいのおそれがある情報を約228.9万件(約229万人分)として公表しました。

これは確認済みの漏えいとは別の区分です。

同社は、個人情報保護委員会との協議を踏まえ、漏えいのおそれを完全には否定できない情報も範囲に含めたと説明しています。

件数の見直しを、新たな流出確認と取り違えないことが大切です。

クレジットカード情報は含まれていません。

参考: 業績にも影響したが、原材料費の高騰なども含むため、攻撃だけの損失とは言えません。

アサヒグループの対応から学べること

アサヒグループは、検知から約4時間後にネットワーク遮断とデータセンター隔離を行いました。

外部の専門機関によるフォレンジック調査、つまりコンピューターの記録から何が起きたかを調べる専門調査も行っています。

バックアップとは: もしものときに戻せるように取っておく、データの控え(コピー)です。

同社は安全性を確認したバックアップから復旧し、全サーバーを作り直して確認したと公表しています。

トレンドマイクロは、手作業で出荷を続けられたことと、攻撃の届かない場所に有効なバックアップが残ったことを評価しています。

一方で、アサヒグループ自身も、EDRの強化が必要だと会見で説明しました。

EDRとは: パソコンやサーバーの中で、怪しい動きがないかを見張るソフトです。

中小企業にも役立つ教訓は、次の3つです。

  1. 外から入れる機器と、強い権限を持つ管理者アカウントを一覧にして確認する
  2. データの控えを、普段使う環境とは離して守る
  3. 手作業に切り替える手順を、平時から決めておく

控えのノートを金庫と同じ部屋に置けば、火事のときに一緒に失います。

バックアップも同じです。

自分の会社を守るために、今できること

今日の3問

保守会社やIT担当者に、次の3点を聞いてください。

  • 社外から入れる機器は何台あり、更新と点検はいつしたか
  • 管理者アカウントに、多要素認証(パスワードに加えスマホの確認コードなどを求める仕組み)は必ず付いているか
  • バックアップは、普段のサーバーが止まっても戻せる場所にあり、復旧を試したことがあるか

後で確認する5項目

  • 使っていないアカウントを残していないか
  • 退職者や委託先の権限を定期的に見直しているか
  • パソコンとサーバーで怪しい動きを見張れているか
  • 休日や夜間に異常が出たとき、誰が連絡を受けるか
  • 注文、請求、連絡を紙や別の方法で続ける手順があるか

自分でまず見るなら、セキュリティチェック で現状を整理できます。

点検や対策の費用感は、脆弱性診断の費用 を参考にしてください。

答えられない項目が1つでもあれば、今週中に保守会社へ点検を依頼してください。

参考にすべき一次情報・公的資料

まず読むならこの1本: アサヒグループホールディングス「再発防止策とガバナンス体制強化について」 https://www.asahigroup-holdings.com/newsroom/detail/20260218-0101.html

さらに詳しく:

  • アサヒグループホールディングス「漏えいのおそれがある個人情報について」
    https://www.asahigroup-holdings.com/newsroom/detail/20260717-0101.html
  • アサヒグループホールディングス「業績予想の修正に関するお知らせ」
    https://www.asahigroup-holdings.com/newsroom/detail/20260611-0101.html
  • アサヒグループホールディングス「2025年12月期決算」
    https://www.asahigroup-holdings.com/newsroom/detail/20260708-0101.html
  • トレンドマイクロ「アサヒグループへのランサムウェア攻撃事例を記者会見から考察」
    https://www.trendmicro.com/ja_jp/jp-security/25/l/expertview-20251218-01.html